ふかいふかい、森の中。
たくさん木が生えていて、太陽の光もとどかない。
そんなさみしい森の中に、一匹のもぐらが住んでいました。
土の中に住むもぐらですから、真っ暗な場所でもへっちゃらです。だけど、一人ぼっちなのは、がまんできませんでした。
しんと静かな森の中。隣に住んでるきのこしゃべりかけます。
「やあ、おはよう。きのこさん」
「やあ、こんにちは。きのこさん」
「きょうもおやすみ、きのこさん」
でも、お返事してくれません。もぐらは、悲しくなりました。
もしかしたら、声が届いていないのかもしれない。そう思ったもぐらは、大きく息を吸って、挨拶をしてみました。
「おはよう! きのこさん!」
でも、きのこはしーんと静まり返っています。もぐらは悲しくなりました。それでも、めげずにしゃべりかけます。
「きょうも、しめっていて、とてもいい天気だね」
「あしたは、雨がふるみたい。きっと冷たくていいきもちだね」
「きのうは、よく眠れた? ぼくは、新しい寝床でねたから、よくねむれなかったよ」
やっぱり、きのこのお返事はありませんでした。
ある日、もぐらが、きのこのところへ行くと、一匹のきつねがいました。
「やあ、こんなにおいしそうなきのこを、ひとりじめなんて、ずるいじゃないか」
きつねはしたなめずり。もぐらは、怒りました。
「きのこさんは、ともだちだ! 食べるなんてとんでもない!」
「でも君に、ひとつも返事をくれたことはないじゃないか。ほんとうにともだちなのかい?」
「それは——」
もぐらは言葉が出ませんでした。たしかに、返事をしてくれたことはなかったのですから。
「僕たちの森へおいでよ。ここよりも、温かくて、にぎやかで、いい場所だよ」
きつねはふさふさなしっぽをゆらしてついておいでと、てまねきします。
「でも、やっぱり——きのこさんはともだちだ!」
もぐらは、顔をくしゃくしゃにしてさけびました。
「お返事をくれなくても、ぼくとずっと、一緒にすごした大事な仲間だ!」
「そうかい」
きつねは大きな声にびっくりして言いました。
「僕は君と、友達になりたかったんだけどな。また、あそびにくるよ」
きつねは、さよならをしてさっていきました。
また、静まり返った深い森の中、もぐらは一人、きのこさんと暮らしています。
「おはよう、きのこさん」
「こんにちは、きのこさん」
「それじゃ、おやすみ、きのこさん」