あの日、僕らはここで出会った。
君は灯台の入り口に座り、ぼんやりと海を見ていたね。ゆっくりと、長い時間をかけながら回る、灯台の光を、何となく目で追いかけていたね。
とても寒かっただろう。夏も終わり、秋のからっ風が吹いている中、君はまだ半袖Tシャツにホットパンツを履いていた。
「ねえ、どうしたの。寒くないの」
釣りの帰り、たまたま灯台の前を通りかかった僕は、たまらずそう喋りかけたんだ。
「寒くない、といえば、嘘になるわね……」
君はぎこちない笑顔で答えた。
「何をしているの」
僕はもう一度尋ねてみたんだ。なぜか、君を、助けなきゃ、と思ってね。端正な顔立ちの君に、どきまぎしていたのかもしれない。
「……彼氏をね、待っていたの。でも、もう来ないから、待つのはやめようって思って。でもやっぱり、ずっとここで、待っているのよね」
「これ、着なよ」
あまりにも寂しげで、切なげな君に気圧されて、僕は自分の着ていたジャージを渡した。半袖シャツだけになると、やはり寒い夜だ。風邪をひいてしまう。
「僕の家、すぐそこなんだ。だから、あげる。風邪ひかないように」
戸惑う彼女に言葉を重ねる。そして、ジャージを押し付ける。
「ありがとう。今度洗って返すわ」
はにかみながら、君は僕のジャージを羽織った。サイズが合わないようで、肩がずり落ちていた。
「じゃ、わたし、かえる。そうする」
君はずっと立ち上がり、そして、あっという間に海へと飛び込んだ。
「びっくりした? わたし人魚なの。また会おうね」
驚く僕を見て、悪戯っ子のように笑って、君は海の中へ消えていった。
これが、君との出会いの話。僕は、君が、笑った顔がとても好きだった。