ドスっと鈍い音がした。見ると、腹の真ん中に包丁が刺さっている。一拍置いて、じんわりと激痛が広がっていく。俺はたまらず膝をつく。
「えへへ」
目の前には可愛らしく照れる女の子。顔立ちは人形のように整っている。ふんわりと裾の広がった赤いワンピースを着ていた。
「やっと会えたね、あきらくん」
甘い声でうっとりと語りかけてくる彼女だか、俺にはさっぱり誰だか分からない。激痛に耐えているのだから尚更、分かるわけがない。何か喋ろうにも激痛で言葉が出ない。血が流れ出る腹を押さえながら、俺はぱくぱくと口を動かした。
「え? わたしのこと忘れちゃったの? まったくもう。幼馴染のゆうこだよぉ」
俺の表情から読み取ったのか、会話を続けてくる。幼馴染のゆうこ、とは誰だったか。ああ、昔、一年ほど住んでいた場所で仲良くなった女の子がいたような——。
「思い出した? 結婚しようって約束したよね。ずっと一緒にいようって。でも、どっか行っちゃって……ずっと探してたんだよぉ」
本当に嬉しそうに語りかけてくる。あの時、仲良くなった女の子はエキセントリックな女の子だった。常に身体中傷だらけで、怪我を恐れず、自分を心身共に痛め付けるのが、大好きな、そんな子だった。守ってあげたいと思ってしまったのだ。それが、こんな、こんなことになってしまうとは。
「イタイはすばらしいんだよぉ。お揃いのイタイ、嬉しいね。わたしと、イタイ、しようね。これからはずっと、一緒にいよう」
そういって、彼女は俺の腹から勢いよく包丁を抜き取り、自分の腹目掛けて突き刺した。
そこで、俺の意識はプツンと途切れた。