09月22日(火)

 中等部校舎の裏庭に、大きな桜の木があるのだが、そこで告白をするとどんなカップルでも結ばれるという。
 そんな噂がまことしやかに囁かれているのだが、私、みことは全くといっていいほど信じていなかった。なぜなら、その桜の木には、悪戯好きなロボットが住み着いているだけだと知っているからだ。
 放課後、今日も私は中等部の裏庭に向かった。こっそりと桜の木を伺うと、中学一年生くらいだろうか、素朴そうな顔立ちの男の子がきょろきょろと辺りを見回しながら、不安そうな顔をして、桜の木の下にいた。枝の間から、ブリキ細工のようなロボットが、男の子の事を見つめている。その機械の顔から、もちろん表情を、読み取ることは出来ないが、私には分かっている。ロボットはドキドキワクワクしているのだと。
 お洒落な髪飾りを付けた女の子が男の子の元へやってきた。その表情は、怪訝そうな、呼び出されたこと自体、迷惑そうな顔だった。女の子はきっとこう言いたいのだろう。「わたし、忙しいの。貴方と付き合う気はないわ」
 でも、実際に口に出る言葉は違うのだ。どんな言葉を伝えようとしても、実際、声になる言葉はこれだけ。「わたし、貴方がスキ。付き合って」
 あの桜の木の枝の間から彼らを覗いているロボットが、声を変換しているのだ。アイツは、何だってできる。でも、どこから来た誰なのかは教えてくれない。なぜ、私の前に現れたのかも教えてくれない。ただ、あのロボットのお世話係に任命されてしまっているのは確かだ。
 喜ぶ男の子と、困惑する女の子。二人の仲を本当に取り持つのは、私の役目だ。だから私は、噂なんて信じていない。
 今日も、人知れず私は奮闘する。