「おめでとうございます。あなたは選ばれました」
白髪の青年が、ぱちぱちと軽い拍手をしている。全身真っ白な服を身につけている。ただ、瞳だけが燃えさかるルビーのように赤く輝いていた。
「おめでとうございます。おめでとうございます」
青年は、朱美の反応を待っているようだった。まっすぐに朱美を見つめながらずっと手を叩いている。
「ありがとうございます」
朱美は、ひとまず返事をすることにした。
ここはどこなのだろうと辺りを見回す。何もない空間だった。真っ白な青年よりも
、よほど白い、何もない空間だった。どこまでも空虚が続いていた。これは、きっと夢なのだ。現実とは何も結びつかない体験だった。
「おひいさま、それでは、こちらからいきましょうか」
返事を聞くや否や、青年はにっこりと笑って、朱美の手を取った。ひんやりと冷たい手だった。まるで体温がないかのような。
青年の向かう先に、突然古びた木製の扉が現れた。
「さあ、どうぞ、開けてください」
朱美の手を扉の取手へそっと導いた。瞬間、その扉から血が垂れた。いつの間にか、朱美の手は真っ赤に染まっていた。
朱美は息をのんだ。声にならない悲鳴を上げた。自らの着ていた服は血と同じ真っ赤なワンピースだった。
「さあ、どうぞ、開けてください。あなたは選ばれたのです」
青年は、ただにこやかに言葉を繰り返す。血のように赤く輝く瞳で、朱美のことをまっすぐに見つめながら。真意は全くと言っていいほど読み取れない。
朱美はただ震えて、扉を開けた。
硬く軋んだ、その扉を開けた瞬間、朱美に大量の赤い液体が流れ込んできた。
「それを、どうぞ受け入れてください。今日は本当に、おめでとうございます」
青年の、あくまで穏やかな声が響く。
朱美は、いつもそこで目が覚めるのであった。