09月18日(金)

 いつか迎えにくるから、と言っていた私の王子様はいつまで経っても迎えにこない。
 涼しげな目元で、控えめに笑う彼は、キラキラと輝いてみえた。私は彼の背中ばかり追いかけて、彼はいつも先を歩いていた。そのうち彼は、白馬に乗って遠くへ行ってしまい、私はかぼちゃの馬車なんてなかったので、追いかけることもできなくなった。しくしくと泣いている私を見て、優しい彼は心を痛めたのだろう、いつか迎えにくるから、だから泣かないで、とわざわざ伝えに来てくれたのだ。単純な私は、その言葉を信じて、涙を拭いて立ち上がった。いつか彼が迎えにくるからしっかりしなくちゃと、頬を叩いて気合を入れた。
 そうして、あっという間に月日がたって、私はもう三十路になった。
 ようやくうすうす勘付いてきたのだが、あの時の王子様はもう来ない。つまらない会社員になって、つまらない仕事をしながら、いつか王子様が迎えに来て、刺激的な日々を送るのを待っていたが、20年も前の約束なんて、きっともう忘れているのだ。
 だから、私は迎えにいくことにした。
 これだけずっと、待っていたのだ、諦めるのは真っ平御免だ。迎えにいってもバチは当たらないだろう。
 手始めに、仕事を辞めた。つまらない仕事で、貯めたつまらないお金を使って、私は彼がいるはずのアメリカへ向かった。