09月15日(火)

 その瞬間は、死を覚悟した。飛び降り台から足が離れ、プールの水面へ着地するまでのたったの1秒。その瞬間には確かに死を感じ、同時に生を感じた。
 冷たさを感じる前に水に包まれ、泡だらけになる。それもすぐに立ち消え、あとはとっぷりと水の中へと沈んでいく。
 僕はもがいた。塊にならない水を必死に掻き出す。すぐに空気へ触れ、顔から水滴が滴る。
「プハ」
 思い切り息を吐き、吸い込む。犬のように手足を動かし、水の真ん中で自分を固定する。それから、陸を目指し辺りを見回した。プールサイドはこっちだ。カエルのように足を曲げ、両腕を使って、水を掻く。じりじりとプールサイドが近づいてきた。
 僕は銀色のハシゴを掴んで足をかける。急に重力がまとわりついてくる。体が重い。けれども、一歩一歩ハシゴを上り、陸へとたどり着いた。
 これが初めての飛込みだった。
 たかが、一瞬のことだったかもしれないが、そこにはたくさんの生きる感覚があった。僕はこれに、ヤミツキになってしまったのだ。
 来る日も来る日もプールに通い、僕は水中へ飛び込んだ。飛び込み方なんて知らなかった。ただ、飛び込む其の瞬間を楽しんだ。生と死の狭間で、僕を感じたかった。