09月12日(土)

「さて、今日君たちに集まってもらったのは他でもない。あの事件の真実を伝えるためだ」
 中西は、ほうぼうに伸びた髪を掻き上げ、ずり落ちた丸眼鏡を中指で直す。それから、深々と緑のソファに座り込んだ。
「また、探偵ごっこ? 私はずっとキッチンにいたし、犯人は現場にいた貴美子って分かりきってるじゃん。中西さんも見たでしょ、あそこにスプーン握った貴美子がいたの」
 三森は口を尖らし、金髪に染め上げた髪を揺らしながら、勢いよく貴美子を押し出す。貴美子はおどおどと、抵抗することなく、中西の前に躍り出た。
「ふむ、確かにあの場に居たのは、貴美子君だけだ」
「だったら!」
「落ち着きたまえ、三森くん。でもそれは、たまたま現場に居合わせただけ——そうとも言えるだろう?」
 中西はまたずり落ちた丸眼鏡越しに、貴美子を見つめる。
「貴美子くん、君はただ、奥のキッチンからスプーンをとって、テーブルの上に置くように頼まれただけ、なんだろう?」
「は、はい……。誤解、なんです。わたし、三森さんに頼まれて、スプーンを持っていただけで、たまたま……」
「そんな事ない! 犯人は貴美子だってば——」
「三森くん。ずっとキッチンにいた君が、どうして貴美子くんが僕に目撃された時の様子が分かっているんだい?」
 声を荒らげる三森の言葉をさえぎり、中西は問う。
「キッチンからはリビングの様子がほとんど見えない。特に、テーブルの辺りは、家具の配置上全く見えないと言ってもいい。にも関わらず、貴美子くんの様子を詳しく知っているのは、三森くん、君が貴美子くんにスプーンをリビングへ持っていくよう頼んだんじゃないのか?」
 中西は、貴美子の後ろに隠れるように立つ三森を覗き込む。
「こうして、いつも貴美子くんに罪を擦り付けるよね。今回も、そうなんだろう?」

「三森くん、君が僕のプリンを食べたんだ」