09月10日(木)

 今日、いつも通りに校門を潜り、いつも通りに下駄箱へ向かった。
 いつも通りじゃなかったことは、上履きの上に、ピンク色の封筒が置かれていたこと。
 一度たりともそんな浮ついた話のなかった僕の、上履きの上にピンク色の封筒が置かれていたこと。
 僕はそっと辺りを見渡す。
 賑やかに挨拶をし合う人たち、眠そうな顔でぼんやりと上履きを履く人、校門に駆け込む人。やっぱりいつも通りの光景だ。
 僕は、誰かに話しかけられる前に手紙を鞄に素早くしまった。
「おはよ、どうしたの?」
 後ろから急に可愛らしい声が飛んできた。ぎくりと身体を硬らせて振り向く。幼馴染の七辻さんだ。
「あ……何でもないよ」僕は慌てて頭を振る。
「そう? 何か下駄箱に入ってたみたいだけど……」
「そんなことないよ! 本当に!」
 七辻さんが僕の下駄箱の中身を覗こうと、頭を左右に揺らす動きに合わせて、僕もゆらりと動く。そこにはもう入っていないけど。
「ふーん。ま、いいや」
 七辻さんはニヤリと笑って教室へ向かって行った。どうやら諦めてくれたらしい。
 僕は荷物を教室に置かずにトイレの個室へ直行する。震える手でピンクの封筒を取り出した。
『田中誠くんへ』
 やっぱり僕宛だ。送り主の名前はない。そおっと封筒を開けてみる。可愛らしい字で、こう書かれていた。
『まんまと騙されたな! この手紙で告白する気はない! 文句は私に直接言いに来て。 七辻』
 僕はがっくりと肩を下ろした。いつもの七辻さんの悪戯か。
 七辻さんがさっきニヤリと笑ったのは、中身を知っていたからか。
こんなからかい方、酷いじゃないか。さすがの僕でも、文句を言いにいこうと思った。
 キンコンカンコン、予鈴がトイレに鳴り響いた。今日も1日が始まった。