がたんごとん、電車が揺れる。
車窓に真っ赤な夕暮れが映っている。不自然なほど真っ赤に燃える空には雲ひとつ浮いていなかった。
少年は、その空を不思議そうに見ていた。靴は脱いで、揃えて、ワンボックス席の前に置き、椅子に膝立ちになり、じっと空を見上げていた。少年の隣に小さなリュックサックは置かれているが、それ以外の荷物はない。どうやら一人で電車に乗っているようだ。
「きっぷを拝見いたします」
車掌がどこからともなく現れ、少年と目線を合わせるように屈んで、優しい口調で話しかける。少年はポケットに手を入れ、リュックサックをまさぐり、そして答えた。
「きっぷはないの」
「おや? それは困りましたね。この電車はきっぷがない人は最後までのれないのです。本当にないのですか? よく探してみなさい」
あくまで優しい口調だったが、車掌の顔は険しくなった。あんなに優しげだった顔が、今は真っ黒に塗りつぶされている。少年は必死に探した。ポケットとリュックサックだけではなく、床も、椅子の上も、棚網の上も。
「やっぱり、ないの」
少年はひどく悲しげな顔をしながら首を振る。
「そうですか、それでは、途中下車していただきましょう」
真っ黒に塗りつぶされた車掌の顔がグルリと少年の方を向く。少年は、車掌に頭をむんずと捕まれ、そのまま捻られた。少年の頭はギチギチと音を立てながら一周し、そして、全身がちりのように消えていった。
「さようなら、この電車は、あなたのようなまだ寿命がある方は乗せられないのです。だって、この電車は、死者の国へ続いているのですから」