「今から、君はヒーローになるとして、何をするかね?」
「なにって……敵を倒すかな」
「敵? 何をもって敵とする? 平々凡々な人生を送ってきた君が、何としても倒さねばならない敵などいるのかね」
「それは、いないけど……ヒーローになったら、きっと敵が出てくるんだろう」
「それでは、誰かに定義された敵という存在を、特に理由なく倒すのか。あまりにも、意思薄弱ではないか」
「そうはいわれても、僕はヒーローではないし」
「いいや、これから君は、ヒーローになるんだ」
「え? 僕はヒーローになんてなれないよ」
「いいや、なれる。すでにヒーローと言っても過言ではない。ヒーローとは何か? 敵を倒すだけがヒーローではないのだ。君は君の物語の中で、善い行いを一つもしていないと言えるか? 知らないうちに、もしくは意図して、誰かのためになることを、誰かのためを思って、君は行動したことがあるだろう。それは、もうすでにヒーローなのだ。君の物語の中では確かに、ヒーローなのだ。これから、君は、誰かの物語の中で、ヒーローとなる。これは、確定していることなのだ。近い将来、必ず、誰かのヒーローとなるのだ。だから、もう一度、問おう。君はヒーローになったら、何をするかね?」
「僕は、だれかのヒーローになったら……ヒーローに、なったら……」
「その答えによって、新たな物語が幕を開けるのだ。さあ、それを言葉にして、そうして、私を楽しませてくれたまえ。私はずっと、待っているよ」