09月09日(水)

『おはよう、ススムさん』
可愛らしいモーター音とともに、僕のベッドが振動する。
僕の体はゆらゆらと揺れて、意識はだんだん覚醒へと向かう。
目をゆっくり開ける。窓から溢れる人工朝日が眩しい。
『おはよう、ススムさん』
もう一度、穏やかなノイズの微笑みが、僕へと喋りかける。
「おはよう、アイさん」
僕も人工朝日の眩しさに目を細めながら、言葉を返す。
「アイさん、今日は何をしようか」
『ススムさん、今日はまず、”ラジオタイソウ”をしてください。音楽に合わせて、体を動かすことです』
「分かったよ」
『終わったら、朝食を摂ります。それから、”いつもの”をしてください』
「いつもの、ね……。了解」
僕が毎回”いつもの”と言っていたら、彼女もそう学習してしまった。
ベッドから立ち上がると、軽快な音楽が流れ出す。僕は音楽の指示に従って体を動かす。なかなかの運動量だ。
毎日こうやって、彼女の提案に従って過ごす。
僕は何も知らないのだ。気付いた時にはもうここにいた。きっとここで死ぬのだろう。そのことに何の不安もない。彼女はいつも、可愛らしく、温かに、微笑むから。
たとえそれがが、”セイタイのケンキュウ”を円滑に進めるためであっても、僕は気にしない。
“ラジオタイソウ”を終え、朝食を食べる。いつものメニュー。赤いものと緑のものと青いもの、それと白いもの。
さて、いよいよだ。いつものことをしよう。
僕は机の上に用意された大振りのナイフを手に取った。